ミュージアムのひととき
第17回 He Wa’a He Moku, He Moku He Wa’a : カヌーは島で島はカヌー
宇宙から見たハワイの島々。宇宙船コロンビアより撮影。写真:NASA 提供
” You can never believe the beauty of island Earth until you see it in its entirety from space.”
「この地球という島の美しさは、宇宙からその全体を見ないとわからない。」
これは 1992 年ハワイ出身の宇宙飛行士レイシー・ビーチが宇宙の旅から故郷ハワイへと帰還 した後、Hōkūleʻa のマスター・ナビゲーター(伝統航海師)ナイノア・トンプソンに伝えた言 葉である。
レイシーは彼の故郷であるハワイを、そしてハワイアンの誇りである伝統航海カヌーHōkūleʻa をこよなく愛していた。彼が初めて宇宙船から地球を目にしたとき即座に、宇宙に浮かぶ地 球、太平洋のほぼ中心に位置するハワイ諸島、大海原を航海する Hōkūleʻa につながりを見出し た。
レイシーはナイノアにこう続けた。
“How can you take care of something that you don’t understand right, Hōkūleʻa needs to know the earth, the earth needs to know Hōkūleʻa.”
「よく知りもしないものをどうやっていたわることができる? Hōkūleʻa は地球を、地球は Hōkūleʻa を知る必要がある。」
ミュージアムのひととき
第1回 人類学部 篠遠喜彦博士 [プロフィール]
第2回 古文書館 館長 デソト・ブラウン
第3回 Makahiki (マカヒキ)
第4回 Kumulipo (クムリポ)
第5回 Heiau (ヘイアウ)
第6回 Heʽe nalu (ヘッエ ナル)
第7回 Maui a me Manaiakalani (マウイとマナイアカラニ)
第8回 Manu (マヌ)
第9回 Manō(マノ)
第10回 Papahānaumokuākea(パパハナウモクアケア)
第11回 Hulia Ano(フリアアノ)
第12回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻaの世界一周航海
第13回 Holo Moana(ホロ モアナ)
第14回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻa の世界一周航海
第15回 UNREAL (アンリアル)
第16回 私が見て感じたラパ・ヌイ イースター島
第17回 He Wa’a He Moku, He Moku He Wa’a : カヌーは島で島はカヌー
第18回 Nā Ulu Kaiwiʻula ハワイアンネイティブガーデンに魅せられて
“Hawaiʻi needs to become the laboratory and the school to help us relearn how to live well on islands and that would be Hawaiʻi’s gift to the earth, it would be about peace.” So that was the seed that he planted in our heads about responsibility.
「ハワイは、地球という『島』で私たちがどのように良い生き方ができるのかを学び直す手助 けをする実験室、そして学校になる必要がある。それがハワイから地球への『平和』というギ フトなんだ。」これはレイシーが私たちの頭の中に植えた「責任」という種だ。
–ナイノア・トンプソンのスピーチより引用–
宇宙船コロンビアからレイシーが撮影したハワイ島のマウナケアと航海カヌーを作る伝統的な手斧。
マウナケアは古代ハワイアンが手斧を作っていた特別な場所だった。
モザンビークのマプト湾内で、錨を引き揚げるのに悪戦苦闘
それから 22 年後、Hōkūle‘a はその種から大きく育ったビジョンと共に 2014 年から 2017 年の 3 年を費やし “Mālama Honua” (マーラマ = いたわる、大切にする/ホヌア = 地球) 「地球をい たわる」というメッセージを掲げ世界一周航海を成し遂げた。
私自身もこの航海のいくつかのレグ(区間)に参加し、それぞれの寄港地で文化も人種も様々 な人々と出会い、触れあうことができた。その体験の中で、私たちは違うところよりも似てい るところの方が多いということを強く感じた。ハワイの人たちが持っている「Aloha」の精 神、私の故郷である沖縄の「イチャリバチョーデー」(出逢えば兄弟だ)の精神はもしかした ら全世界共通なのではと感じる場面がいくつもあった。
モーリシャス島から南アフリカのケープタウンへの航海の途中、嵐を避けるために避難したモ ザンビークのマプト湾内で錨を引き揚げられずに2時間も立往生していた。すると、どこから ともなく白人の男性が操船する白いモーターボートがやって来て私達を助けてくれた。彼の船 で錨を引き揚げてくれたのだ。その白い船がカヌーの周りをぐるっと旋回する様子は、Manu o Kū(マヌ・オ・クー)という航海カヌーに島が近いことを知らせ導いてくれる白い鳥のようだ った。
やっとの思いで錨を引き上げて南アフリカの最初の寄港地であるリーチャーズベイに入港した 直後、現地に住む日本人の男性が私に歩み寄り日本語で話しかけてきた。この方はオカワさん といって、2007 年の日本航海 横浜に寄港した Hōkūleʻa と初めて出会い、それからずっと動 向を追っていたそうだ。Hōkūleʻa が海外勤務先の南アフリカに航海することを知り、わざわざ 隣町から何時間もかけて出向いてくれた。そして Hōkūleʻa のために何かがしたいからとカヌー のデッキを隅から隅までタワシで磨いたり 食料買出しの手伝い等、南アフリカでは大変お世 話になった。
ハワイから 180 度地球の反対側で、見ず知らずの困っている私達を無償で助けてくれた白い船 に乗った男性や、Hōkūleʻa のためにデッキを磨いてくれたオカワさんとの出会いに私はとても 驚いた。悪いニュースにばかり目を向けてしまうこの世の中だが、世界にはまだたくさんの優 しさが残っている。希望の光が見えた体験だった。
上に挙げたのはほんの一部で世界中の寄港地の先々で Hōkūleʻa の周りでは似たようなことが起 こっていた。Hōkūleʻa に宿っているマナが同じ波動を持つ人達を引き寄せるのだろうか。 Hōkūleʻa の世界一周航海は世界中の多くの人々に支えられた。航海した先々で私たちが助けを 必要とする時いつも誰かが現れ助けてくれた。この事実があったからこそ、Hōkūleʻa が無事に ハワイへと帰還することができたのだろう。
南アフリカのダーバンにて。地元の子供達が Hōkūleʻa での舵とりを体験中。
地元セーリングクラブの子供たちが Hōkūleʻa を訪問。
ハワイに “He wa’a he moku, he moku he wa’a” 「カヌーは島で島はカヌー」ということわざが ある。大海原に浮かぶ一艘のカヌーと、周りを海で囲まれた島での生活はつながっている、カ ヌーは島の縮図であるといったような意味だ。カヌーでも島でも資源は限られている。だから こそ分け合うことは当たり前で、お互いを家族のようにいたわり、相手を思い行動し、自然と 共に生きていく。カヌーでできることが島でもできるならば、この地球を宇宙に浮かぶ一つの 島とだと考えて行動し生きていくことも不可能ではない。このカヌーでの体験は人としてそう いう生き方ができるのだと信じさせてくれた。
この世界一周航海で Hōkūleʻa を助けてくれた人達にまた会いたい。会って彼らのために何かが したいと強く思う。でも、もしかしたらもう二度と会うことはできないかもしれない。遠く離 れていても私が彼らに恩返しできるとするなら、その受けた優しさを別の誰かに優しさで返し ていくこと。それが巡りめぐって彼らに届いていくことを信じて。結局のところ日々の優しさ の積み重ねが世界の平和につながることを、オカワさんや、Manu o Kū のような白い船に乗っ て現れた男性、そして寄港地の先々で出会った人々に教えられた。
南アフリカのダーバンにて地元の学校を訪問。ハワイからはカメハメハスクールの生徒達がフラを踊り、 地元の生徒はアフリカンダンスを披露し文化 流。ナイノアはこの光景を見て、”this is the world peace look like” 「これを世界平和と呼ぶのだろう」と言った。
この新型コロナのパンデミックに世界中が脅かされている状況の中で、Mālama Honua 「地球 をいたわる」という言葉を聞いても、いったい何をしたらいいかわからないという人達がいて も仕方のないことだと思う。でも、こんな時だからこそ、自分自身と向き合い、自身をいたわ り、そして隣にいる誰かをいたわる。それが家族や友達、あるいは偶然に出会った人だとして も、優しさ、思いやりを持って接していくこと。それが、今、この瞬間からでも私達にできる「Mālama Honua」の最初の一歩なのかもしれない。
“ ’The canoe, to me, it is a way of encouraging adults and youth alike to follow their dreams and to take care of this precious earth and to teach them ways in which they can take care of it because individually we can do it and together we can do more,’ says Veach”
「私にとって、カヌーとは大人でも子供でも同じように夢を追えること、そして、たった一つ の地球をいたわることを勇気づける方法であり、彼らにそれができるということを教え導くも の。なぜならば、私たち一人ひとりができることを皆が一つになってやればより多くのことが できるのだから。」 レイシー・ビーチ
現生人類の発祥の地である南アフリカ Mossel Bay(マッスルベイ)の洞窟の沖を航行中の Hōkūleʻa。 世界で最も若い文化であるハワイアンの伝統航海カヌーが世界最古の文化発祥の地を訪れた。
筆者:Tamiko Fernelius 2009 年からポリネシア航海協会(Polynesian Voyaging Society)のメンバーとして Hōkūleʻa や Hōkūleʻa のシスターカヌーである Hikianalia のドライドックやクルートレーニングに参加。世界一周航海ではハ ワイータヒチ間等のレグ(区間)に参加した。現在もクルーとして活動する傍らビショップミュージア ムでもスタッフとして勤務。
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