ミュージアムのひととき
第15回 UNREAL (アンリアル)
Image #125 caption:UNREAL 開催中のロングギャラリー。こちら側はステレオタイプなハワイをイメージした宣伝広告が一面に展示されているサイド。
ミュージアムのひととき
第1回 人類学部 篠遠喜彦博士 [プロフィール]
第2回 古文書館 館長 デソト・ブラウン
第3回 Makahiki (マカヒキ)
第4回 Kumulipo (クムリポ)
第5回 Heiau (ヘイアウ)
第6回 Heʽe nalu (ヘッエ ナル)
第7回 Maui a me Manaiakalani (マウイとマナイアカラニ)
第8回 Manu (マヌ)
第9回 Manō(マノ)
第10回 Papahānaumokuākea(パパハナウモクアケア)
第11回 Hulia Ano(フリアアノ)
第12回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻaの世界一周航海
第13回 Holo Moana(ホロ モアナ)
第14回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻa の世界一周航海
第15回 UNREAL (アンリアル)
第16回 私が見て感じたラパ・ヌイ イースター島
第17回 He Wa’a He Moku, He Moku He Wa’a : カヌーは島で島はカヌー
第18回 Nā Ulu Kaiwiʻula ハワイアンネイティブガーデンに魅せられて
ハワイと言えば何をイメージしますか?サーフィン、ヤシの木、ビーチ、フラダンサー、ウクレレといったものでしょうか。中にはハワイアンフード、スパムむすび、アサイボウル等の食べ物が浮かんでくる方もいらっしゃるかもしれません。ハワイが人気の観光地となり旅行業界は宣伝広告を掲げ、映画や本、アートに於いてはストーリーや作品の舞台としてこれまで数多く取り上げられてきました。これらのデザインは南国情緒に溢れ、独特の文化を持ったハワイを強く打ち出すことによって観光客を惹きつけるビジネス戦略の一つであったことでしょう。しかしその中に描かれているイメージは果たしてどこまで本当のハワイを表しているでしょうか?現在ロングギャラリーで開催されている
” UNREAL” はハワイに対するステレオタイプなイメージのデザインと、ネイティブハワイアンのアーティストがハワイアンの視点からハワイを表現した作品を見比べて「本当のハワイとは?」を改めて考えてみることができる展示です。
展示会場となっているロングギャラリーを一見するとギャラリーの半分に色鮮やかな宣伝広告のデザイン画が壁一面に展示され、床には人工芝のマットが敷かれています。これらのデザイン画はハワイが観光地となり始めた20世紀前半から営業してきたホテル、汽船会社、エアライン、旅行会社の広告やハワイを特集した雑誌の表紙等です。ビーチ沿いに立つホテル、そこには必ずと言っていい程ヤシの木が描かれ、サーファー、花のレイを頭や首に飾った女性、グラススカートを身に着けたフラダンサーといったものが多く描かれています。デザイン画が一面に広がる壁には点々とケースに入った12の作品が展示され各々2つの解説が付いています。ひとつは白地のボードに書かれた作品の一般的な情報、もうひとつは黒地のボードに書かれた作品をクリティカルに捉えた情報です。別の視点からの意見を参考にしてみると同じ作品が不思議と違って見えてきます。それぞれの作品が表しているステレオタイプなイメージのハワイは黒地ボードの解説によって社会政治的な側面が浮き彫りになります。
Image Pineapple Split (002) caption: 「ロイヤルハワイアン パイナップルスプリット」の小さな紙ポスター、1950年代のもの
ビショップ ミュージアムのライブラリー&アーカイブス在籍で歴史家の (デソト・ブラウン)氏によれば当時アメリカの小さなレストランではメニューの一品、特にアイスクリームなどのデザート類をこのようなポスターにして店内に展示していたそうです。このデザート名には「ロイヤルハワイアン」という言葉が使われていますが、ハワイ王国が存在した19世紀にはこのようなデザートはありませんでしたから、王国とは何の関係もありません。またハワイのパイナップル産業は一時期大変な成功を収めましたが、パイナップルは元々中央アメリカ原産で1810年頃までハワイには自生していませんでした。パイナップルはこのような形でよく広告に取り上げられましたが、ハワイの伝統文化との関係は全くありません。
また、オアフ島Wahiawa(ワヒアワ)にあるドール プランテーションによれば、創業者のジェームズ・ドールは1899年にマサチューセッツ州からハワイに移住し、その後パイナップル栽培を始めました。彼はいち早くテクノロジーを取り入れ、1930年代にはパイナップル事業をハワイの主要産業に発展させました。彼が所有したラナイ島では一時期世界のパイナップルの75%を生産していたこともあり、ハワイはパイナップル・アイランドとして知名度を上げました。ちなみにジェームズ・ドールは1893年のハワイ王国転覆に関わりその後ハワイ共和国の大統領となったサンフォード・ドールの従弟です。
パイナップルにアイスクリームを添えて如何にもハワイをイメージしたデザートかもしれませんが「ロイヤルハワイアン パイナップルスプリット」とは何とも皮肉な感じがします。
Image #031 caption:ネイティブハワイアンアーティストの作品が展示されているサイド
色鮮やかな広告デザイン画と打って変わってギャラリーのもう半分の壁は真っ黒です。その壁に囲まれたギャラリー中央に大きな絵が掲げられています。その絵はネイティブハワイアンのアーティスト6人が共同で描いたもので、2つの異なった絵が背中合わせに展示されています。両サイドどちらもハワイアンの視点から描いたハワイで、テーマは ‘Āina Aloha(アーイナ:大地、土地 / アロハ:愛)。絵画のひとつはハワイアンの主食タロイモや何世代にも渡って伝統を守り続けてきた先祖の人々、生命に不可欠な水や神様への捧げ物を供えていた祭壇などハワイアンを育んできた大切な物が描かれています。この中にはサーファーも奇抜な衣装のフラダンサーもウクレレもありません。裏側に展示されているもう一つの絵画は抽象画です。この絵をどのように観て感じるかはその人次第ですが、必ずしも「ハワイは常夏でゆったりとした雰囲気」と感じられるものではないでしょう。以前は独自の言語や文化を持っていたハワイという国が言葉や文化、土地を奪われていく中でハワイアンが体験してきた痛み、苦しみ、悲しみ、しかしそれらに囚われるだけでなく許しを通しての癒やしに希望を託し未来を繋ぐという切実な想いをこの作品で描いているとアーティスト達は語っています。ふたつの絵画のどちらにも‘Āina Aloha、ハワイの土地を愛するハワイアンの熱い想いが込められています。
” UNREAL”展はビショップミュージアム内のロングギャラリーで2019年1月27日まで開催されています。機会のある方は何がREAL(本当)で何がUNREAL(本当ではない)なのかを実際にロングギャラリーでご覧下さい。これまで知らなかったハワイが見えてくるかもしれません。
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