ミュージアムのひととき
第14回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻa の世界一周航海
~Mālama Honua World Wide Voyage 体験記第2回 (前編)~
Hikianaliaでタヒチへと航海してから約1年後、2015年5月から7月にHōkūleʻaに乗船しオーストラリアのブリズベンからダーウィンへの航海に参加させて頂きました。今回はその航海での体験を前編と後編に分けてお話していきます。
■ 海から陸の生活へ、そしてまた海へ
タヒチへの航海から帰って来て家族に再会できた喜びも束の間、その次の週からは仕事も始まり普段の陸の生活に戻っていった。でも日々の生活のリズムを取り戻していく中で、航海に出る前と後で確実に変わったことがある。それは、今まで当たり前だと思っていたことに対して有難さを感じていること。家族や友達と一緒に過ごす時間、土や草木、花の匂い、ビーチを歩いたときに足裏に感じる砂の感触、海に飛び込んだり、サーフィンができること、温かいシャワーが使えること、氷の入った冷たい水が飲めること、冷蔵庫や洗濯機、乾燥機がいつでも使える生活、その何気ない日常生活の出来事に素直に感謝できるようになった。カヌーでの限られた空間で積んである物だけを使っていた航海で、生きていくために必要な物というのは少なくてもいいのだということを学んでから、家の中を見回してみると実はあまり使っていない物の方が多いということに気が付いた。そういうことに気付いたり、日々の小さな出来事に感謝して幸せな気分に浸ったりすると同時に、また航海に出たい!という気持ちが沸々と心の中から湧き出ていた。すると不思議なもので、ポリネシア航海協会から、今度はHōkūleʻaでオーストラリアのブリズベンからダーウィンへの航海へ参加できますか?というメールを受けた。私の返事はもちろん「YES」、そして家族のサポートもあり再び航海に参加することになった。
ミュージアムのひととき
第1回 人類学部 篠遠喜彦博士 [プロフィール]
第2回 古文書館 館長 デソト・ブラウン
第3回 Makahiki (マカヒキ)
第4回 Kumulipo (クムリポ)
第5回 Heiau (ヘイアウ)
第6回 Heʽe nalu (ヘッエ ナル)
第7回 Maui a me Manaiakalani (マウイとマナイアカラニ)
第8回 Manu (マヌ)
第9回 Manō(マノ)
第10回 Papahānaumokuākea(パパハナウモクアケア)
第11回 Hulia Ano(フリアアノ)
第12回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻaの世界一周航海
第13回 Holo Moana(ホロ モアナ)
第14回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻa の世界一周航海
第15回 UNREAL (アンリアル)
第16回 私が見て感じたラパ・ヌイ イースター島
第17回 He Wa’a He Moku, He Moku He Wa’a : カヌーは島で島はカヌー
第18回 Nā Ulu Kaiwiʻula ハワイアンネイティブガーデンに魅せられて
■ Kuleana(責任)
今度はHōkūleʻaでオーストラリアへ。Hōkūleʻaが初めて太平洋を越える。タヒチへの航海とはまた別のキャプテン、クルーとの航海。そして、私に割り当てられたKuleana(責任)は料理担当とクオーターマスター。私は料理が余り得意ではないのに、料理担当になってしまったのと、クオーターマスターというもうひとつの責任重大なKuleanaを任されたために、タヒチへの航海以上に緊張していた。カヌーの上で料理担当というのはキャプテンとナビゲータの次に大事だと言うクルーもいるくらい、長い航海での食事はクルーにとって貴重な楽しみの時間である。それだけに、料理担当のクルーにはプレッシャーが重くのしかかる。それに加えてもう一つの私のKuleanaであるクオーターマスターは、食料や水等の荷物をカヌーに積み込む際に指揮ををとる。積荷の重さを配分しカヌーのバランスを考えて配置するため、積み込みが行われる前にローディングプランを作成し、積み込みの際にカヌーのどこに何があるかを把握し、それがクルー全体にわかるようにマニフェストを作成することが大切な役割のひとつとなっている。荷物の積み込みが行われた後も航海が始まってからは常に水と食料がどれだけ残っているかチェックし道具や荷物の保管場所が変わる度マニフェストを更新していかなければならない。
タヒチへの航海では初めての長距離航海ということもありベテランクルーに何をするべきか聞いてそれに従うか、ベテランクルーの後について彼らのやってることを真似たり手伝ったりしていたが、この航海では私が率先して行動しなければならないのだ。
このKuleanaは十数種類あり、クルー全員に割り当てられる。今回の航海はタヒチへの航海とは違い寄港地が多く、オーストラリアの東海岸を沿岸沿いに航海していく。地元の学校や施設の訪問、カヌーツアーとイベントが多数あるため、陸の上で航海をサポートするランドクルーが約5人、そして、途中の寄港地でクルーの交代もあり、実際に最初から最後までカヌーに乗船したのは私を含む8人のクルー(通常の航海は12人)、しかもそのほとんどが若手のクルーだった。そのため1人のクルーに2~3のKuleanaが割り当てられた。
下記が主なKuleanaである。
キャプテン 船長
ナビゲーター 伝統航海士
ワッチキャプテン それぞれのワッチ(4~6時間交代で行う見張り当番)のキャプテン
ファーストメイト キャプテンの助手的存在
クック 料理担当
クオーターマスター 上記
セーフティーオフィサー カヌーとクルーの安全に関することを担当
セーフティースウィマー ライフガード的存在
エレクトリック 無線や航海灯などの、カヌーの電気関係の修理等を担当
カーペンター 大工さん的存在、カヌー全般の修理を担当
セイルリペア 帆の修理を担当
フィッシャーマン 魚釣り担当
サイエンス カヌー上で行うサイエンスプロジェクトを担当
プロトコル 島に到着した際の儀式などを取り仕切ったり、上陸する際にチャントを唄ったり、クルーにチャントをトレーニングする
エデュケーション 寄港地で行う教育プログラム、例えばカヌーツアーや、地元の学校訪問などを段取りし取り仕切る
コミュニケーション 無線でのやり取りや、ポリネシア航海協会のオフィス、寄港地との連絡係り
ドキュメンテーション 航海の様子を写真やビデオに収めオフィスに送り、ニュース等に配信
ドクター お医者さん
■ 一年ぶりに再会したHōkūleʻa
ホノルル空港から飛行機で 約8時間のフライトの後ブリズベンに到着、それから車を走らせて約1時間、やっとHōkūleʻaが停泊する港に着いた。私達クルーの目が自然と二つのマストを探す。夕日が沈む少し前ピンクとオレンジが混ざった夕焼けを背景に、これから私達の母になるHōkūleʻaは力強く、そして静かに私達の帰りを待っていた。クルーそれぞれがHōkūleʻaに触れ1年ぶりに再会できた喜びを噛み締めていた。
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